top of page

67 血圧が高くなってきたら【事件編】

~「サイレント・キラー」高血圧症管理術~

10月初めの快晴の朝、図書館に行こうとバスに乗った。と、途中の停留所で、高齢の女性がバスの入口からなかなか乗り込めずにオロオロしている。

何をしているんだろうと見ていると、通路をはさんで反対側に座っていた男子高校生がスッと立ち上がり、女性のキャリーバッグを持って入口のステップを上がって来た。そうだったのか、バッグを持ち上げることができなかったのか。

ホームズ君の心の中を、今朝の青空に吹いているような爽やかな風が吹き抜けた。

「高校生。なかなかやるな」

君のお陰で、今日一日を気持ち良くスタートできそうだ。

先月、A警察署でも同じような涼風が吹きぬけたのを、ホームズ君は確かに感じた。

昭和2年竣工という歴史の重さを持つロマネスク様式の石造りの建物。その狭くて暗い廊下にある遺失物取り扱い窓口を、ホームズ君は訪ねていた。前日にハガキが届き、前の週に見失ったまま、ほとんど諦めかけていた小銭入れを保管しているというのだった。

差し出された物を見るとそれは確かに失った財布で、中身もそのままだった。係の警察官にバスの待合所に落ちていたと言われ、登山帰り、バス停で腰につけたポーチに財布を入れようとした時、すべり落ちたのだと理解できた。

お礼のためにと届けてくださった方のお名前を聞くと、わざわざ交番まで届けてくれたその人は、名前を告げずに帰られたというのだ。

その瞬間、暗い廊下はLEDライトが点灯したように光り輝き、緑濃い山並みから吹きおろしてきた清々しい風に、あたりが包み込まれたような気持ちがした。

最近は、セ・リーグの最下位弱小球団ヤクルトスワローズの優勝、日本代表ラグビーの南アフリカ代表逆転撃破、それにノーベル医学生理学賞、物理学賞受賞と、爽やかな風が吹きつのっている。   

しかし一方、あまりに涼風に酔いしれていると、何か黒い運命の陥穽(かんせい)が大きな口を開けて、待ち受けているのではないかと心配になってくる。

今回は血圧のお話である。

日本人の高血圧症患者は、全人口の4人に1人といわれている。年齢と共に血圧は上がってゆくから、いずれは誰もが高血圧になると考えてよい。事実65才以上の日本人のうち、60%が高血圧症だそうだ。

さて、いつものように何人かの方々に登場していただこう。

【Aさん 76才女性】

普段は家事と庭の手入れ、畑での作業が主な仕事で、高血圧症の治療は15年目になるベテランだ。毎月1回ホームズ診療所を訪ねてくれていて、自宅で毎日計っている血圧の記録を、毎回持参されている。

ここ半年ほどその血圧が少しずつ高くなり、130/70くらいだったのが、150−160/80−100になってきた。そのためか頭痛や頭重感に悩むようになっている。血圧が上がっているのが心配になったAさんは、治療がこれでよいのかホームズ君に尋ねてみようと考えたのだった。

【Bさん 56才男性】

ビジネスマンのBさんは、忙しい仕事で帰宅も遅い。一日のスケジュールが詰まっているので、職場の若手社員が通っているようなジムでのトレーニングもできない。

4年前、突然胸が苦しくなり、救急車で心臓の専門病院に運ばれたことがあった。救急外来に着いた頃は痛みも苦しさも大分改善し、幸い心電図も異常がなく帰宅することができた。

翌日、近所の循環器医院を受診して、ベルトコンベアの上を歩いて心電図をとったり、24時間心電図をとってもらったりしたが異常が見つからなかった。

高血圧があったのに治療しておらず、動脈硬化が進んでいて、心臓の筋肉に血液を送る血管が、一時的に収縮したのだろうと診断されたのである。

Bさんは、どのような高血圧治療を受けることになったのであろうか。

【Cさん 87才男性】

若い頃から、毎日の農作業で自然と鍛えられた頑強な身体も、最近は食事量も減って筋肉が落ちた。やせ型の体型だが幸い内臓は健康だ。特に大きな病気もせず過ごしてきたが、2年前から少し血圧が高い。

緩い血圧治療薬を飲み始めているが、先月は150/90くらいになった。症状は全くないが、この血圧で大丈夫だろうかと少し心配になっている。

同居の息子さん夫婦も、「もう少し血圧を下げてもらった方がいいのではないか」と受診を勧めたのだった。

さあ、Cさんの血圧管理はこれでいいのだろうか。

[解決編につづく]

ますむら医院 院長・増村 道雄

bottom of page