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72 不調の原因が目でわかる! X線CTの威力【事件編】

~胸の奥もお腹の中も、目で確かめれば怖くない!~

今年の冬は、北海道で何度か猛吹雪があったようだが、西日本は比較的暖かい気候が続いた。

3月も末に近くなると野原も花景色、桜も咲き始めている。2月の六甲山・有馬の氷瀑巡りはタイミングを誤り、丸6時間歩いて単なる滝巡りになってしまった。拍子抜けの冬であった。

さて今回は、昨年の年末に経験した2つの事件を取り上げてみよう。

【Aさん 80才・女性の場合】

娘さんと連れ立ってホームズ診療所を訪ねて来られたAさん。一見して活気がない。高齢の方で元気がない場合は、重い病気が隠れていることがある。要注意である。

お話を伺うと、Aさんが体調を崩したのは5日前。食欲もなく、床から離れられない状態だったために体温を測ると、なんと39度の高熱だったのだ。翌々日、だんだん衰弱してゆくAさんの様子を見かねて、ご家族が近くの内科医院に連れて行ったところ、診断は感冒。

幸いなことに、胸部X線写真でも異常な陰影が見当たらなかったのである。

帰りには風邪薬を処方してもらうことができた。やれやれ風邪で良かった。お薬で少しずつ良くなってくるのを待とうということになった。

ホッと一息というところだったが、しかしAさんの状態は快方に向かう兆しが見られなかった。

翌日も、翌々日も38度台の発熱が続いた。咳もひどくなり、黄色い痰も増えてきた。高熱のためか身体の節々も痛むようになった。考えあぐねた末『コレット』で記事を読んでいたホームズ診療所に足を運んでみよう、ということになったのである。

「ホームズ君、今日の体温も38度ちょうどだよ」

ワトソン君の表情も冴えない。それもそのはず、Aさんの様子は一見してかなり辛そうに見えた。呼吸も速く浅い。

「Aさん、食欲が低下して高熱が続く…。しんどいでしょうね」  

ホームズ君は、喉の中を覗いてみた上で胸の呼吸音を細心の注意を払って聴いた。胸の音は問題なかったが、左の背中で少し呼吸音が弱く、ズルズルと低い音も聞こえた。気管に痰がからんでいる音である。

「まずは、インフルエンザかどうか検査しましょう」

Aさんの表情を確かめながらそう告げると、ホームズ君は「胸部X線写真が正常で、インフルエンザがもしも陰性だったら、次は胸部CT検査だね」とワトソン君の方に向き直り、指示を出したのだった。

さあ、Aさんの高熱が長引いている原因は見つかるのだろうか。

【Bさん 45才・女性の場合】

診察室で椅子に座ったBさんは健康そのものという風で、とり立てて何かに困っている様子はなかった。

ホームズ診療所には、健康相談に来られる方も多い。サプリメントを飲んでいるが、高価なので種類を減らそうと考えているといった相談。血圧を測っているが、測定値があてにならないので血圧計の信頼度をみてほしいと血圧計を持参する方。運動するのに最適な時間帯や運動方法の相談。ご家族の病気の相談に来られる方もいる。いわば、よろず相談所のような役目も担っているのである。

だからBさんのような、健康そのものの事件解決依頼者も決して稀ではない。ゆっくり話を伺うと、昨年受けられた人間ドックの結果の相談に来られたことがわかった。

「1年前、腹部エコーの結果、お腹に無エコーの腫瘍を指摘されCT検査を勧められたのです。でも仕事が忙しく、病院を受診できないでいました。今日は思い切って訪ねて来ました」

ホームズ君は、今までの病歴や、現在治療中の病気の有無など一通りの問診を済ませると、身体の診察にとりかかった。

さあ、Bさんの腫瘍とはどんな病気だったのだろうか。

[解決編につづく]

ますむら医院 院長・増村 道雄

* * * * * 

ホームズ先生こと増村道雄先生の新刊「ドクターホームズの診療所事件簿(仮題)」4月発売予定!

佐久総合病院で増村道雄先生の3年後輩にあたる作家で医師の南木佳士(なぎけいし)さんが、この本に次のような推薦文を寄せてくださいました。

『よい医者の条件』の一つとして『語りえないものの前では沈黙することができ、ひたすら相手のことばを聴くことができる』。

まさに、増村さんの診療姿勢を的確にとらえた至言でしょう。

本書は、患者の訴えに根気強く耳を傾け、些細なことに気づき、患者にとって最善の治療へ導く医者『ホームズくん』の診療記録を読み物としてまとめたものです。

健康な読者は未然の病気についての知識を増やすことができ、患者はどういうふうに医者にかかればいいかを知ることができますし、患者家族は選択肢が増えるかもしれません。医療従事者が読めば、著者の考え方を知ることができます。

加東市で地域医療に従事する『ホームズくん』の活躍をお読みいただけると幸いです。

四六判、予価1、600円(税別)

神戸新聞総合印刷営業事業本部

出版部出版担当(神戸新聞総合出版センター)

推薦文 西 香緒理

南木佳士(本名:霜田哲夫、1951年10月13日生)日本の小説家、医師。代表作は『ダイヤモンドダスト』『医学生』『阿弥陀堂だより』等、生と死をテーマにした作品が多い。

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