73 不調の原因が目でわかる! X線CTの威力【解決編】
~身体の輪切りが実現する早期診断・早期治療~
四月の初め、ソメイヨシノの開花の便りが届く頃になると、六甲山系にも様々な花が開き始める。
中でも、山腹を埋めつくすように咲くのがタムシバである。コブシの一種で、白い可憐な花弁が大きな木全体に開き、その木の数が無数にあるので、山全体が白く見えるようになる。
五月になると満開になるのがコバノミツバツツジである。深いピンク色から紫色をした花で、陽当たりの良い西南斜面に群生地がある。その多くは主要な登山道から離れ、地図上には道もない尾根沿いなので、ハイカーもほとんど通ることもない。
数年前、その道なき道を山頂に向かって登っていて、満開のコバノミツバツツジの群生地に迷い込んだ。天候も良かったこともあり、青空を背景にした明るい紫色の花園は、いわば異次元の世界だった。以来、毎年山仲間を誘って初夏の桃源郷巡りをしている。
先日、その隠れた秘境への道を下見に登った時、堆積岩が崩れたガレ場の中で、水中に生える藻の化石を見つけた。岩石の表面を覆う蘚苔類のようにも見えたので、念のために岩を割って割面を見たが、そこにも藻の化石が広がっていた。
湖沼か海の底の植物が堆積物に埋もれ、そのまま化石化したものだと思う。そもそも六甲山は、約百万年前の隆起造山活動でできたといわれている。それくらいの年代を経た化石かと思うと、宇宙の壮大な時間の流れが頭をよぎり、何か厳粛な気分に襲われた。
さて、事件のその後の経過に話を戻そう。
【Aさん 80才・女性の場合】
高熱でぐったりしているAさんを、心配そうに見つめている娘さん。インフルエンザの迅速診断の結果が陰性、つまりインフルエンザではないことを告げると「エーッ」というような困惑の表情を浮かべた。
ホームズ診療所では、インフルエンザ検査には、以前の診断キットに比べより速く、より精度の高いF社製品を使用している。流行期には2台がフル稼働で診断しているのである。
とにかく、インフルエンザが陰性となったら次のステップだ。胸部X線写真を…と言いたいところだが、すでに3日前に検査済み。その上、異常なしと言われている。と、なると次は胸部CTなのである。
その結果は――。
「Aさん。高熱の原因がわかりましたよ。左肺の肺炎です。炎症を起こしている場所は、左肺の下3分の1の部分です。ここは、普通のX線写真では心臓に重なって、見えにくい場所なのです。すぐに総合病院に紹介します」
「原因がわかってよかったですね。Aさん」
ワトソン君が2人に声をかけた。
約1週間後、病院からファックスが届いた。
「Aさんが、抗生物質の点滴で症状がなくなり、今日退院になったよ。ホームズ君」
「X線写真では見えにくい心臓の後ろにある病気も、CTではくっきりと写し出すことができる。Aさんも早期診断が、早期治療に結びついたんだよ」
【Bさん 45才・女性の場合】
K市のアパレルショップ店員のBさん。店舗増設のため、時間を惜しむように仕事に打ち込んでいた。そのため、病院を受診する機会を失っていたのだった。
ホームズ君の腹部の診察では、明らかな腹部腫瘍は認められなかった。
「次は腹部CTだね」
「どこに、どんな病気が隠れているんだろうね、ホームズ君」
腹部CTを撮影してみると、左側の腎臓に袋状の円形の影が見えた。さらに肝臓の中にも、それより小さな袋がある。
「ホームズ君、この腎臓や肝臓にある黒く見える袋のようなものは何なんだい?」
「これはね、生まれつきの水を湛えた腫瘍で、のう腫といわれるものなんだ」
「病気なのかな」
「いや、日常生活に害はない。良性で、そのまま放っておいても大丈夫なんだよ」
「ということは、Bさんの場合は治療をする必要がないんだね」
「そうなんだ。しかし腫瘍の種類や性質によっては、手術治療が必要なことも多い。検査してみないことには解らないから、放っておかないで速く精密検査を受ける必要があるんだよ」
Aさん、BさんのCT検査の後にも、何人もの方々がCT検査で診断がついた。
たとえば、食欲が低下して体重が減って来たと相談に来られた方が、腹部CT検査で肝臓腫瘍が発見されたり、仕事の意欲が低下した方が、頭部CTで脳腫瘍と診断されたりしている。
身体を輪切りにした画像が見えるX線CTの診断能力は、とび抜けてすごいのである。
ますむら医院 院長・増村 道雄