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74 眠気に戸惑う企業戦士を救い出せ【事件編】

~うつ病なのか、怠け癖なのか、それとも……?~

熊本地震の被災者の方々にお見舞い申し上げますとともに、犠牲者の方々のご冥福をお祈り致します。

今回は働き盛りの30才台男性・Aさんを襲った、無気力事件である。

寒さが少しずつほぐれ、桜の蕾が枝の先でふくらみ始める早春のある日、ホームズ診療所に一本の電話が入った。その内容は、優秀な技術系の社員が、最近仕事の意欲が極端に落ちてしまっているという相談だった。

特に朝の体調がすぐれず、目覚めが悪くなり、近頃は起床できずに遅刻しているというのだ。

これは大変だ。背景に過重労働があるのかもしれない。職場の人間関係に悩んでいるのかもしれない……。

「とにかく早くお会いして、原因を伺うことにしましょう」と話し、Aさんが訪ねて来るのを待つことになった。  

Aさんが会社の上司と一緒にホームズ君を訪ねて来たのは、翌日の事だった。

Aさんの第一印象は、物静かな落ち着いた好青年という感じだった。しかし、明らかに自分の状況に戸惑っているような様子も見られる。話し方もどこかゆっくりとしていて、会話のテンポが少し遅いかなと思えたが、そうしたことは仕事に集中できないAさんの状態を、物語るサインかなとホームズ君は考えていた。

時間をとって、ゆっくり話を伺うと、体調を崩したきっかけは、前の月の風邪にあったようだった。

疲れがとれず、気分が沈みがちだったAさんは、住まいの近くのクリニックを受診してみたのだが、診断は「風邪」。処方された薬を服用すると症状は軽くなった。

時間がかかっても体調を回復させ、また仕事に打ち込もうと気持ちを切り替えてみた。しかし、半月もしないうちに咳がぶり返し、鼻水も出て、疲れがとれないという状態になってしまったのだった。

そうこうしているうちに、朝目覚めてもウツラウツラと眠気が続き、起床することができなくなったというのである。

Aさん自身も「怠け癖が出てしまっていると思う」と言い、自分の体調の悪さの原因を、半ばやる気の無さのせいだと思っているように見えた。

しかし、ホームズ君には一つ腑に落ちないことがあった。それは、電話での相談内容から、あらかじめ受けて頂いた心理テストの結果であった。

典型的なうつ病といってよいAさんの状態からは全くかけ離れて、テストの結果は35点。正常範囲という評価だったのである。

さて、困窮極まるAさんを救うことはできるのであろうか。「やる気の無さ」の原因は、果たして何なのであろうか。

[解決編につづく]

ますむら医院 院長・増村 道雄

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