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75 眠気に戸惑う企業戦士を救い出せ【解決編】

~科学の力を凌駕する、人の支えと温かさが窮地を救う~

大地震、政治家不祥事、抗争、不況、事故、テロ、終りの見えない戦争……。暗く、重苦しい雰囲気が漂う2016年の春、数少ない希望を感じさせるニュースの中でひときわ光を放つ報道が、オバマ大統領のヒロシマ訪問だった。  

核爆弾が人類に対して、どんな悲惨な結果をもたらすのかを示すその爆発現場に、初めてアメリカ大統領が訪れた。歴史的な時を私たちは体験したのだ。

オバマ大統領はヒロシマ演説の中でこう言っている。

「石英から刃物を作り、木からやりを作ることを学んだわれわれの祖先は、こうした道具を狩りだけでなく、同じ人類に対して使った。全ての大陸で、文明の歴史は戦争で満ちている。

穀物の不足であれ金(ゴールド)への渇望であれ、国粋主義の熱狂的な扇動や宗教的な熱意であれ、帝国は興亡し、人々は支配されたり、解放されたりしてきた。

節目節目で、罪のない人々が苦しみ、無数の死者を出し、彼らの名前は時間とともに忘れられた。」

「科学のおかげで私たちは海を越えて交流し、雲の上を飛び、病気を治し、宇宙を理解するが、こうした科学的発見はより性能のいい殺りく兵器にも変わり得る。」

「近代の戦争は私たちにこの真実を教えてくれる。広島がこの真実を教えてくれる。」

「普通の人には分かることだと思う。皆、戦争はたくさんだと思っている。科学の驚異は暮らしの向上に焦点を当てるべきで、命を奪うものであってはならないと考えている。国々やその指導者が決断を行うときにこの単純な知恵が反映されれば、広島の教訓は生かされたことになる。」

(時事ドットコムより抜粋)

戦争の放棄を誓ったこの日本から、しかも71年前の原爆の爆心地から、世界に発信されたこの言葉の意味を、私たちは心の底から理解し、じっくりとその重みを味わうべきだと思う。

核兵器廃絶はオバマ大統領のコロンビア大学学生時代からの夢であった。また、演説の中にあった子どもたちの未来についてのくだりは、公民権運動の牧師マーチン・ルーサー・キングの考えを踏襲しているのである。

さて、Aさんの事件に話を戻そう。

一日中続く眠気、働く意欲の低下、そして遅刻・欠勤に本人自身も困惑し立ちすくむ、Aさんの体調不良。その全貌を一日も早く明らかにし、根本の原因をあぶり出すこと。そして何としても適切な治療に結びつけなければならない。

話し終った後、肩を落として応接室を出てゆこうとするAさんにホームズ君は声をかけた。

「念のために血液検査をしておきます。明日には結果が出ますから、結果を聞きにいらして下さい」

つとめて明るい響きを言葉にこめながら、再びAさんが来ることを祈ったホームズ君だったが、一方では「血液検査か――。それくらいしか方法はない……。しかし濃霧の中で道を探す、ろうそくの炎だな……」と、心細い思いをかき消すことはできなかったのである。

問題解決の糸口は、しかし突然、しかも偶然に訪れたのだった。

実はAさんは、予定の日にはホームズ診療所には来なかった。いや、来ることができなかったのである。

約束の日の午後遅く、Aさんの会社の上司から、今日は朝から欠勤しているという電話がかかってきたのである。ホームズ君は、ぜひ一緒に受診されることをお願いして電話を切ったのだった。

Aさんが2度目の診療に来たのは5日後。翌週になってからであった。

一日も早い回復をという願いも空しく、体調はさらに悪化していた。朝の眠気のため欠勤が続いていた。付き添って来た上司もAさんの病状を気遣い、困り果てている様子だった。

そこでホームズ君が会社での状況に話を向けると「職場の同僚が、話の内容も噛み合わず会話が成り立たない……と言っているんです」という言葉を引き出すことができた。

「エッ!?」

ホームズ君はとっさに「すぐ頭部CTを撮りましょう」と言葉を継いだ。

直後に行った神経学的検査でも全く異常を見つけることができなかったにもかかわらず、頭部CTの結果は「脳腫瘍」であった。

思考や会話に大切な左右の前頭葉に、腫瘍が拡がっていたのである。Aさんは即座にN病院脳神経外科に紹介され、治療が開始されたのだった。

「ホームズ君。うつ病のような活気の喪失の原因は脳腫瘍だったんだね」

「そうなんだ。血液検査にも結局異常は見当たらなかった。せいぜい炎症はない、といった結論しか引き出せなかったからね」

「とにかく、もう一度来ていただいたことが事件解決のきっかけになったね」

「いや、心配して一緒に来て下さった上司の方の一言だったね。解決の鍵は…」

たくさんの人たちの支えで、事件が解決してゆく。次回もそうした難事件物語を紹介して、健康回復に向かう原因究明のプロセスに、サーチライトの光を当ててみようと思う。

ますむら医院 院長・増村 道雄

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