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78 謎の病に襲われた高齢男性を救え【事件編】

救急車で病院に運ばれたのに……異常がない!?

今年の夏は例年よりも、また一きわ暑かった。   

西脇市では8月27日現在、最高気温30度以上の真夏日が52日間。35度以上の猛暑日が15日間を記録している。

猛暑の中で夏が居座り続けている感じだ。9月、10月も継続して熱中症予防を心がけて頂きたい。

ところで、9月9日は救急(9・9)の日である。その救急の日にあわせるように、朝日新聞で救急出動件数と問題点が報道された。記事によると救急車の出動件数は600万件を超え、7年連続で増加している。

増加の原因、第1位は高齢化とのこと。そうであれば今後、救急車の出動件数は増加すること間違いなしだ。消防署の方々の仕事は、大変になる一方だろう。

ところがその一方で、救急隊が誰も運ばず引き返す「不搬送」が、2014年までの10年間で43万件から63万件に1.5倍増えたという内容だった。搬送がない「空振り」出動が1%、100件に1件もあるのは確かに問題だ。

不要、不急の救急車利用は厳に慎むべきだ。

* * * * *

さて今回の事件は、その救急車が登場する2つのケースである。読者の皆さんも、できるなら救急車を必要とするような事故や病気に、あいたくない、なりたくないと思っていることと思う。

しかし、逆に救急車で搬送されなければならない、さし迫った状況に遭遇し、治療を期待して病院を受診したのに、検査の結果まったく問題ないと言われたらどうだろうか。そんなこともあるのか、といぶかるような事件だが、実際に起きたのである。

連続して発生した2つの事件の詳細をレポートして、皆さんの健康管理の参考にして頂きたいと思う。

【Aさん(84才・男性)の場合】

ある晴れた夏の日の午後。その日も、心の底まで乾ききるほどの陽射しが降り注ぎ、木々の緑まで力を失なったように見える午後のことだった。

白いカッターシャツのAさんを、左右から2人の女性がはさむようにして、ホームズ君の診察室に入って来た。すぐ後から付き添うように女性が一緒に入って来たが、年令を考えると、2人の女性は娘さん、後の女性は奥さんのようであった。

Aさんも、3人の女性もその表情は一様にどこか硬く、特に奥さんと思われる女性は肩を落とし、うつ向いていて、その様子から強い疲労感が見てとれた。

あいさつもそこそこに応接室に腰を下ろすと、「長女ですが、父親がお世話になります」と、Aさんを支えて来た女性の一人が口を開いた。

「実は、このところ毎日のように激しい腹痛を訴えて、救急車を呼んでくれと叫んでいるのです。何回か救急車で近くのT総合病院を受診したのですが、その都度検査を受けても異常ないと言われるのです」

Aさんは、苦しそうに表情を歪めて「便が出ないので、お腹が痛むんです」と訴えている。

T病院C先生からの紹介状には、「腹痛発作を主訴として頻回の診察依頼があり、所見では特異所見を認めず、躁うつ病を疑っています」と、Aさんの現状を裏づけるような記載があった。

「毎晩のように救急車を呼ぶんですか……それは大変ですね」

ホームズ君は同情の表情を浮かべてAさんを見つめた。すでに済ませてある心理テストと認知症テストの結果に目をやりながら、ホームズ君はAさんが苦しんでいる毎日の情況を聞き続けた。

一通り話を聞き終えると最後に、「ところでAさん、どういうお仕事をしておられたのですか」と尋ねた。

「大工をしていました」とAさんは答え、それが何か……という風な表情で、話の行き先に注目している。

さて、ホームズ君は、繰り返される原因のはっきりしない腹痛に苦しむAさんを、どのように救っていくのだろうか。

【Bさん(85才・男性)の場合】

Bさんは娘さんと奥さんに付き添われ、お昼前、まだ混雑が続くホームズ診療所を訪ねて来た。

ホームズ診療所では診察の合間の時間を見はからい、看護師さんや補助士さん、受付事務員さんが、初診の方たちの情報をホームズ君に伝えに来る。

それは2時間、3時間の待ち時間を少しでも節約するために、必要最小限の検査を勧めることも目的の一つであるのだ。

Bさんについての情報は「2週間前からのふらつき。今朝はついに嘔吐した。立ち上がることもできなくなったため、救急車でP病院に搬送した。

頭部CTをはじめ外来検査はすべて正常。そのため薬も出されず、帰宅を勧められたのだが、心配した娘さんが頭部MRI検査を希望して、家へ帰る途中にホームズ診療所に立ち寄った」というものだった。

Aさんと同様、救急車で総合病院を受診しても、検査結果は異常なし。

診察室で報告に耳を傾けていたワトソン君も「ホームズ君。これは雲をつかむような話だね」と心配顔だ。

ホームズ君は、しばらくじっと目を閉じて考えこんでいたが、看護師さんに向かって言った。

「心理テストを先に済ませておいて下さい。後はゆっくり話を聞くことにしよう」

さあ、めまい、嘔吐のBさんの病気の原因に、ホームズ君はどう迫まっていくのだろうか。

【解決編につづく】

ますむら医院 院長・増村 道雄

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