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89 熱中症にご用心

~ホームズ君の熱中症体験記~

Hさんに教えて頂いた、播磨中央公園から登る扇山コース。朝の散歩のスタートに取り入れてから、すでに6ヶ月になった。

初めの1~2ヶ月は扇山直登登山道を15分かけて三角点まで登り、下りは急傾斜の山道を走るように駆け下りていた。扇山から下りた後、五峰山光明寺に上る車道を辿って五峰山山頂まで歩く。根本堂からは、いつもの散歩コースを下りる。

早朝診療前の1時間の散歩は1時間半になり、6千歩だった歩数も一挙に1万歩を越えるようになった。

ある日、冒険心で扇山頂上から、光明寺への標識がある山道へ踏み込んでみた。

欝蒼(うっそう)とした高い杉木立ちの間、深閑としたたたずまいの山道は、光明寺の境内に通じているようだ。しかし、先が見通せない。

ゆっくりと深呼吸をして涼しい空気を胸一杯に吸い込み、一歩を踏み出した。林の中の道は予想に反して道巾2メートルほどもある。

それはゆったりとした起伏を繰り返す、格好の散歩道だった。その上何よりも静かだ。足元の枯れ葉を踏む音すら、杉木立ちの間に吸い込まれてゆくようだ。深い森の中のため直射日光が射し込むこともない。扇山を登ったことで、トレーニングウェアの背中も胸も汗ぐっしょりになっているが、この森の小径の冷気で冷え、冷たさが肌を刺す。

光明寺根本堂のどの辺りに出るのか、少し心配になった頃、ちょうど1キロメートルくらい歩いて初めて道標に出くわした。「どこかで見た標識だな」と思って辺りを見回す。

それまで、本堂のある山は、道の右側にあるに違いないと思っていたが、それは全くの思い込みだったとすぐに解った。左手に見慣れた石段が見え、登りきると鐘撞き堂。そこはすでに根本堂の真ん前だったのである。

扇山から光明寺へ通じる森の奥の小径。陽の射すことのない静寂の道。幾人もの僧侶が、一列になって歩く情景が似合いそうなこの空間は、今は私にとって最も穏やかな息抜きの場所になっている。

さて、今年の暑さはまた一段と厳しい。「熱中症予防に水分をしっかり摂ってください」と毎日毎日、誰彼となく水分補給を勧めている。

そのホームズ君が、脱水症に陥った。

熱中症は、こんな風に襲ってくるのだと思い知らされた。この貴重な体験を読者の方々に報告して、知識を共有して頂きたいと思う。

ある日曜日のこと。久しぶりに訪ねて来た息子と、有馬温泉の公衆浴場『銀の湯』に行った。30分ほどゆっくりお湯につかり、帰宅した後のことだった。

急にムカムカと吐気を感じたのだ。そのうち身体に力が入らないような感じもし始めた。

5~6分の間にムカムカ感が強くなり、あくびまで出て来た。気分の悪さから、椅子に深く座り直してみた。しかし良くなる気配はない。食中毒でも起したのかなという思いも、一瞬頭をよぎった。

脱力状態で「気分が悪い」と、ワトソン君ならぬ家人に告げると、「あ、脱水だわ」と言って、すぐに梅干し入りの白湯を作ってくれた。その声で、入浴中の発汗とその後の日中の蒸し暑さとで、水分を急激に失っていたことに思いが及んだ。

コップに2杯、梅干し湯を飲むと、あっと言う間に体調不良は改善した。

水分と塩分の摂取で、幸いなことに熱中症の入り口から生還できたのだった。

「熱中症は屋内にいても起る」という話はよく聞いていたが、実際そうだった。経験してみると、こんな時に、こんな場所で……だった。

その上、喉が渇くというような、いわば前兆と思われることは一切なかった。

熱中症の四大初期症状は「めまい」「頭痛」「吐き気」「脱力」といわれている。

今回ホームズ君の経験した熱中症初期症状も、なんとなく身体がだるい。あるいは、胃腸の調子が悪い。身体の力が抜ける。そんな症状だった。

初期は、思いがけない意外な症状で始まるということをお忘れなく。

皆さんには、そんな症状が出て来たら、すぐに水分補給をして頂きたい。水分も、少量の塩分や糖分を含む水の方が、胃腸で吸収されやすい。お勧めはスポーツドリンクである。

熱中症は、突然襲ってくる。油断せず、素早い対処をお願いしたいと思う。

ますむら医院 院長・増村 道雄

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