81 激しい脚の痛みに耐える男性を救え【事件編】
〜違和感からしびれ、痛みへ進んだ原因とは?〜
新年おめでとうございます。
昨年末、アメリカの大統領選挙が終わった。トランプ現象で大方の予想が覆り、新しい大統領が決まった。将来、振り返ると歴史的な選挙となることだろう。
フィリピン、ドゥテルテ氏の大統領就任。韓国、朴政権の崩壊。イギリス、EU離脱。21世紀は、異常気象と同じく異常事態の連鎖が続く。
国内でも、TPP強行採決。駆けつけ援護法の強引成立。カジノ法案の無頓着採択と暴風が吹き荒れている。
官房長官が対立する政党を馬鹿呼ばわりして平然としていたり、某元党首が女性議員をクソババアと言い放ったりしている。
世界も、日本も、品位がない。
フーテンの寅さんがよく言っていたものだ。
“それを言っちゃあ終しめえヨ”
“お天道さんが見てるってもんだ”
日本人の心の底には、そうした自らをたしなめる感性が備わっていた。
三千年前の縄文時代から、部族集団では互いを思いやり、協力し合う姿勢が備わっていないと、集団生活そのものが成り立たなかったのではないだろうか。
弱者への思いやりや、自己の行動・言動を律する心は、自然や生命に対する畏怖・畏敬の心が息づいていたからこそ、あり得たのではないだろうか。
そしてこうした畏れの思いが、日本人の心の中に長く根づいていたのではないかと思う。
“お天道さんが見ている”という風に。
翻って、無理をし放題、やり放題、声を荒げ、人を差別し、主張を通す人たちが拠って立つところは何なのだろうか。考えこんでしまう。
しばらくは増税、年金カット、医療費負担額増加、と毎日の生活が圧迫され続けるだろう。
観光立国のためというお題目で作られるカジノも、行きつく先は人の心と地域の荒廃を招くと思うのだが……。
今回は、Pさん60才男性のお話である。
Pさんは会社勤めの合間に、週末には市営プールで泳いだり、近くの里山を歩いたり、時には10kmマラソンに挑戦したりするスポーツマンである。
体を動かすために、アルコールも控え節制しているので、職場検診でも血液検査に異常値はない。
体力には自信があったPさんは、夏の盛りに開催される高原のマラソン大会に備え、アップダウンの多い練習コースを選んで走りこんでいた。
ある日、下り坂のコースでスピードアップをした時、ズンッと腰に違和感が走った。
下り坂で踏み込んだ足にスピードアップの負担が加わって、背骨に思った以上の力がかかったのだ。
その日からしばらく、走る距離を減らして無理をしないように心がけていたのだが、そうした心配りにもかかわらず、体調は徐々に悪化していった。
まず、右足のふくらはぎの外側から足先まで、ジーンとしびれるようになり、程なく、その妙な感覚は痛みに変わっていった。
特に長時間の自動車運転の後は、痛みが強くなった。
Pさんは、通勤にも困るようになっていったのである。
しばらくして、家にあった鎮痛剤を服用することになり、その効果で痛みは少しやわらいだように思えた。
しかし、間も無く病状は次の段階に進んだのだった。
つまり、毎日のデスクワークで椅子に座っていることができなくなったのだ。
30分も座っていると右足が激しく痛んだ。
ただ、椅子から離れて数分立ち上がり、歩いていると不思議と痛みは軽くなった。
痛み止めを飲み続け、仕事の合間、合間に机から離れ、つかの間痛みから解放されることを繰り返していたPさんだったが、遂に意を決して病院を受診することにした。
その理由は――。
痛み止めを一日に何度も飲み続けていたある日、Pさんは真っ黒な便に気が付いた。
風邪をひいた時くらいしか受診したことのない近所の内科医に相談に行くと、「胃腸から出血している」とショックなことを言われたのだった。
もう痛み止めだけに頼ってはいられなくなったのだ。
止むを得ず病院を選ぶことになり、Pさんは考えた。
まず、入院は避けたい。
なぜなら、その時職場では新しいプロジェクトが進行中で、Pさんはその責任ある立場にあったからである。
予定は来月まで決まっていて、とても仕事から離れる訳にはいかない。
無理を承知で同僚、後輩に仕事を振り分ければ、月に一回くらいの病院受診は可能だが、それがギリギリの線だった。
入院治療は、最初から考えられなかったのである。
Pさんは、受診先として神戸労災病院を選んだ。
何人かの友人に尋ねたところ、この病院を受診した人が、外来治療だけで改善したということを聞いたからである。
さて、Pさんの激しい脚の痛みの原因は何だったのであろうか。
そして治療法はどうなったのだろうか。
[解決編につづく]
ますむら医院 院長・増村 道雄