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82 激しい脚の痛みに耐える男性を救え【解決編】

~病魔の正体は脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)~

ヨーロッパとロシア、中国、朝鮮半島、それにインド、中東、東南アジアまで、広大な大陸、ユーラシア大陸。その西のはずれがポルトガルの大西洋に面したロカ岬である。

ロカ岬の突端には、詩人カモンイスの詩の一節が刻まれたモニュメントがある。

「ここに地果て、海始まる……」

インド航路を発見したヴァスコ・ダ・ガマ、初めて世界一周を果たしたマゼラン、日本にキリスト教の布教を行ったフランシスコ・ザビエルなど、数多くのポルトガル人が大西洋から世界へ飛び出して行ったのである。

広く青い海原を眺めながら、五百年前この水平線のかなたへ初めて乗り出した人たちの冒険心を思った。

木造の船で、危険をかえり見ず、未知の世界への旅に身を投じる……。何事も、初めて試みるということは、とてつもない勇気がいることだ。人生を賭けた世界への旅に、夢とロマンを感じた。

岬の切り立った崖の下に、おそらく当時と同じように砕け散る白い波が見えた。大西洋の岸辺の色は青というより緑色に近い、美しい海の風景だった。

さて右足の痛みに耐え兼ねて、病院を受診したPさんのお話に戻ろう。

神戸労災病院整形外科でMRIを撮影して受けた診断は、腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)。

背骨の中には、脳と手足を結ぶ神経が束になって走っている。

この束は、他の神経と区別されて脊髄神経と呼ばれている。

その脊髄が通っているトンネルが脊柱管である。

本来、脊柱管は脊髄を通すのに充分なスペースの余裕を持ってできているのだが、加齢と共に背骨の変形などが原因で狭くなってくる。

そして変形が進み、遂には神経を圧迫すると症状が出てくるのである。

知覚神経が圧迫されれば、しびれや痛みが出てくる。

運動神経が圧迫されれば、筋肉の力が弱ってくる。

特に筋肉が弱って歩けなくなる場合は、しばらく休んでいると力が回復してまた歩けるようになるという特徴があり、間歇性跛行(かんけつせいはこう)と呼ばれている。

神経の圧迫による痛みの症状をとるためには、安静が第一になる。

多忙なPさんも、しかし、病気の状況を知らされて仕事を休まないわけにはいかなかった。

会社に報告をして休みをとったのである。

心配していた仕事の方は連絡してみるとすぐに了解が貰え、その上治ったらまた早くプロジェクトの指揮をとるようにと理解ある対応をしてもらえた。

「ホームズ君。病気の原因がわかって、まず一安心。その上、職場の理解が得られて安静治療となった。良かったね」

「ワトソン君。仕事というものは不思議なもので、渦中にいるととても休めないと考えてしまいがちだが、思い切って相談してみると、何とかなるものだね。どこからか新しい光が射してくるようにね」

「Pさんのように、頑張って頑張り抜くような仕事ぶりの人は、組織もそれなりに柔軟に対応してくれるのかもしれないね」

「そうなんだ。どんな病気でもこれは言えることで、最近は特に会社の側の柔軟な対応が、以前より迅速になったように思うよ」

結局、思いとは裏腹に安静のために入院となったPさんだった。

痛みの改善に望みをかけて安静を守ったのだが、しかし残念なことに効果が得られなかった。

予定された2週間の安静期間が終わり復職したのだが、ものの1週間でまた激しい右足の痛みが起こり、仕事に集中できなくなったのである。

それでも、回復のためにと、腰のブロック注射も受けた。

額に脂汗が浮かぶほど、それは痛みの強烈な治療であった。

結局2回のブロック注射でも右足の痛みは改善せず、1ヶ月後に再入院。とうとう手術となったのだった。

「Pさんも大変な治療だったね。手術の結果はどうだったんだい」

「マラソンの時のちょっとした力の入れ間違いから始まった、右足の痛みだったのにね。痛み止めを飲んでも治らず、入院安静でも良くならず、ブロック注射でも効果がなかった。最後の望みを托した手術は、しかしうまくいったようだよ」

「そうだったのか。ホームズ君。それはよかったね。治療はやはり専門病院が良いということだね」

「うん。最近もホームズ診療所を訪ねてくれたけれど、Pさん、幸いに元気でね。しびれは少し残っているようだけど、痛みはすっかりとれた。職場の仕事でも、今はプロジェクトリーダーとして責任を果たしていると言っていたよ」

脊柱管狭窄症という病気は、症状が出てくるまでは全く健康で、生活に支障なく過ごすことができる。

しかし急に痛みや、筋力の低下が起き、どんどん進行してゆく始末の悪い病気の一つだ。

症状が出たために、検査してみて初めて神経のトンネルが狭くなっていることがわかる。

脳の血管や心臓の血管がつまる、脳梗塞症や心筋梗塞と似ているといってもよいのではないかとホームズ君は考えている。

検査はX線検査の他、MRI検査が正確な情報をもたらしてくれる。

しびれ、痛み、力の低下などの症状がある方は、かかりつけ医や、近くの整形外科を受診されることをお勧めしたい。

ますむら医院 院長・増村 道雄

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