83 発達障害を学ぼう
~地域社会の理解と対応力向上をめざして~
1月22日、当日の天気予報は雨。
寒い朝を予想していたが、思いがけない明るい空で、時には柔らかい陽も射していた。
この日、やしろ国際学習塾で、小野・加東ロータリークラブ主催、発達障害講演会が開かれた。
3ヶ月間の準備・広報活動の結果、地域の保育園、学校の関係者の方々、兵庫教育大学の学生や先生、それに関心を持つ地域の人達250人が参加した。
講師は大阪教育大学名誉教授の竹田契一先生。
40年以上にわたる発達障害研究の豊富な経験を元に、基礎的な知識から具体的な対応まで、分かりやすく解説された。
そもそも発達障害という概念は、30年前、日本全国の小・中学校で「学級崩壊」と呼ばれる混乱が起き始めた頃、その原因の一つとして注目を集めるようになった。
学校や学級に適応できず、規律・ルールを理解できない、守れないという一群の子ども達がいることが徐々に明らかになったのだ。
5万人の児童を対象にした最近の調査では2.6%、38人に1人という発生頻度も報告されている。
当初は、ルールを守れずクラスがまとまらない原因は、一部の「困った子ども達」にあると考えられていた。
しかし研究が進むにつれ、「困った子ども達」ではなく、実はその当事者である本人が「困っている子ども達」であることがわかってきた。
そうした「困っている子ども達」は、何に困っているのか。
明らかになってきたのは、言葉の理解、場面の理解がうまくいかないため、周りの人達とのコミュニケーションが上手にできないことだった。
さらに、そうした脳の働きの特性が、遺伝ではなく先天的にあり、そのために本人は幼少時から周囲の人との関係がうまくいかないという困難さを経験しているのだということもわかってきた。
さらに進んで最近では、そうした特性は病気や障害と捉えず、個性と考えられるようになってきているのである。
個性なのだから、周囲の人達、つまり、家族や保育現場の保育士、教育現場の教師、そして地域の人達が、その子の特性、個性を十分理解した上で対応することが、トラブルを減らし、より良い人間関係をつくることにつながるわけである。
今回の講演会でも発達障害のある子ども達は、周りの人との言葉でのやりとりが苦手であることが強調されていた。
言葉の持つ深い意味が理解できず、表面的な文字の意味だけを捉えるため困難に直面する。
一例を挙げれば「お風呂を見て来て」と言われると、お湯の量や温度までチェックするという意味まで理解できず、「お風呂」を「見て」くるという行動のみになってしまう。
冗談が理解できないため、「馬鹿にされた」と思い込み、心の底から怒ってしまう。
一つの言葉でも、疑う気持ちからの「本当ですか(?)」と、驚きの感情のこもった「本当ですか(!)」と、納得の意味合いで使う「本当ですか(→)」の区別がつかない。
その上、相手の表情の意味が理解できず、従って相手の心、気持ちもつかめない。
一つ一つの言葉を単独に受け止めるために、周りの人の会話の「流れ」が理解できない。そのため「場の雰囲気」もわからない。
このように様々な障害が重なって周囲にわかってもらえず、孤立し、自分に対する自信が持てないまま常に不安感にさいなまれる。
周りから誤解されたり、いじめにあったりすることが多いため、常に本人はどうもしっくりしないという感覚のまま、環境に適応できない不安の中にいる。
イライラしたり、一方では気持ちが落ちこんだりしやすい。その結果、辛い生活を送ることになってしまう。
中には、不安・気持ちの落ち込み・イライラが昂じて怨みに発展してしまうこともあるというから、正しい理解と接し方が、いかに大切かということにもなるのである。
研究の成果として、指導プログラムも作られている。
それには、①自尊感情を高めるために褒める教育 ②本人の状況把握を助ける手段・方法の構築 ③対人関係技能の習得 ④行動分析によるトラブルの低減 などの例が挙げられていた。
このように、周囲の気づきと対応の改善、社会の中で生きてゆく本人の技能の習得、その両面の努力が必要なのである。
発達障害については、社会の中で、その存在は徐々に知られるようになってきており、ホームズ君の診療所にも「自分は発達障害ではないか」と相談に訪れる人も増えてきた。
しかし、治療については、興奮状態や極度の不安に有効な薬はあるが、根本的な治療薬はない。
治したいという要望には、まだ応えられないのが現状なのである。
今月も20才を過ぎた方の母親が相談に来られた。
話を伺う中で、「小学生・中学生の時に判断されていたら良かったのに」という言葉がこぼれ落ちた。成人であるため行政の相談窓口を案内しながら、早期の的確な診断と、早期からの社会全体の対応・対処の必要性を強く感じたのだった。
ホームズ君は今、すでに3回目を数えた今回の講演会を、今後何度も企画・実施して、地域社会全体の対応力を向上させていきたいと考えている。 ますむら医院 院長・増村 道雄