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54 「眠れない…」5人に1人の睡眠障害を追え!【解決編】

~眠れない人の数だけ治療法がある。あなたの原因は何ですか?~

異常気象の8月でした。

広島、丹波の被災地の方々に心よりお見舞い申し上げます。

眠れないで困っているという人たちに対して、ホームズ君は必ずしも、すぐ睡眠薬を処方する訳ではない。

不眠と一口に言っても、その原因は様々だ。100人の不眠症も、一人一人原因は異なる。極論すれば、100通りの治療があると言っても良いのである。

①『一日の過ごし方』

これは不眠の原因探求の上で大事な要素である。例えば、昼寝について訊いてみる。昼間に2時間も眠っていれば、誰でも夜しばらく眠れないのは当然だろう。

中学生・高校生で、夜中一時過ぎまでインターネットをしていたり、ゲームやメールをしている人もいるが、ホームズ君の持論は、「0時前までに寝つかないと、身体や心の疲れは解消しない」である。

②『アルコールの量』

これも大事なポイントの一つである。世の中には、眠れない時はアルコールを飲んで眠っているという人が多い。しかし実はアルコールの鎮静作用は極めて弱く、持続時間も非常に短い。結果的に浅い眠りのまま朝を迎えてしまう。

従って、身体も心もリフレッシュできないのである。深酒した後の朝の気だるさは、誰しも経験したことがあって理解できるだろう。

さらにアルコールを飲む量は短期間に増える。ビールや日本酒より焼酎が身体に良いという人も多いが、アルコールはアルコール。信じてしまいやすい考えであるが、誤解である。

ホームズ君は、アルコール量を必ず聞き出し、お酒より少量の睡眠剤の方がいかに安全で、そしてまたはるかに有効かという点を説明するようにしている。

③『身体疾患』

痛みや痒みが結果的に眠りを妨げるのは当然のことだ。それぞれの原因疾患を治療するのは、不眠解消の第一歩。高齢の方の夜間の頻尿も不眠の原因となる。

④『精神疾患』

うつ病、パニック障害、心的外傷後ストレス障害も不眠を引き起こす。薬を使って不眠を治すことが、精神疾患の治療と直結していると言って良い。眠れないことが昂じて、夜になるのが恐くなるという人たちも多い。そうした細かい心の動きまで把握する必要があるのだ。

さて、眠れない二人の治療について話を進めることにしよう。

[ケース1 Aさん・34才女性の場合]

ホームズ君の前で緊張気味のAさん。すでに記入済みの気持ちの落ち込み度検査は58点。心のケアが必要な点数だ。そこで眠れない理由を思いつくままに話してもらうと、子どもの頃の思い出話が出て来た。両親のいじめを受けていたという辛い話だ。

Aさんの表情が曇り、視線も遠くへ移っていくように見える。過去の心の痛手で、普段も感情の起伏が激しいと打ち明ける。

こうした場合、ホームズ君は聞き手に専念することにしている。思いつくまま心の底まで吐露すると、誰もが一様に落ち着きを取り戻す様子が見える。その間合いを見計らって睡眠剤の説明に入る。Aさんの場合は、5年前使っていた睡眠剤を手渡すことにした。

長期間に渡って薬で治療を受けたことがある人は、たいてい同じ薬を希望される。慣れ親しんだ安心感もあるのかもしれない。相性も良かったのだろう。敢えて変更しないで様子を見ることにした。

一ヶ月くらいの間隔をおいてAさんが顔を見せた。ホームズ君は眠れていることを確かめた後、今服用している薬が「非ベンゾジアゼピン系」と呼ばれる、依存性の少ない睡眠剤であると説明した。Aさんの表情が少しゆるんで、安心した笑顔がこぼれたように見えた。

[ケース2 Bさん・76才女性の場合]

夜の闇がカーテンのように下りてくると、訳もなく不安に心が塞がれ、眼が冴えてきて眠りにつけないBさん。恐怖感が眠りを妨げているこうしたケースでは、睡眠剤以外に精神安定剤も必要になる。

夕食を終わらせた後、早い時間帯に精神安定剤を一錠または半錠、睡眠準備のために服用して頂く。長時間作用型の精神安定剤が、こうした入眠準備にはうってつけだ。服用してもすぐ眠気は感じられないので、夕食の後片付けや入浴は滞りなくできる。床に就く直前に「非ベンゾジアゼピン系」の入眠剤を併用して頂く。

すると、二つの薬の効果によって自然な睡眠導入が可能で、眠りも深い。途中で起きてしまうことがないので、気持ちの良い朝の目覚めが保証される。   

Bさんは、夕食後に安定剤を服用することになった。すると、あんなに不安だった寝入り時の数十分が嘘のように消えた。知らないうちに眠りに入り、朝気持ち良く起きた。時計を見ると6時。夜中に一度も目覚めなかった。

そうした日を数日間過ごすうちに、Bさんはすっかり健康を取り戻したのだった。近い将来、睡眠剤も必要なくなるだろう。

「ホームズ君。深い睡眠がいかに大切かと言うことなんだね」

「そうなんだ。夕方にウォーキングをするとか、眠る前にゆっくり入浴するとか、生活の工夫も大事だと思うよ、ワトソン君」

「僕も早寝早起の生活リズムを日課の第一歩にするよ」

「あ、もう10時だ。そろそろ休まないとね」

ホームズ診療所の夜が更けるのは、いつものように今日も早い…。

ますむら医院 院長・増村 道雄

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