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100 一瞬の意識を失くすうら若き主婦、突然の眠気に襲われるオフィスレディ……病魔の正体を暴け!【事件編】

~的確な診断で事故を防げ‼~

西日本豪雨の被災された皆さまにお見舞い申し上げます。200人をはるかに上回る亡くなられた方々のご冥福をお祈りいたします。

昨年までの線状降水帯とは全く違う、広範囲面状降水帯ともいうべき豪雨が何日も続いたのです。気候がすっかり変わってしまったということではないかと思います。

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毎朝の散歩コースである扇山の三角点から西へジョギングをすること15分で、標高272mのピークに到達する。そこに闖入者(ちんにゅうしゃ)がいた。

ホームズ君に気がついて、すでに彼は身構えている。少し首を縮め、手足をモソモソ動かす。

なんだこりゃあ。こんな山の頂上に……。

カメなんて――。

黒く縁取られた黄色の甲羅のカメだ。そのユーモラスな動きに、しばらく見入っていた。「どこから登ってきたんだろう」と考えてみたが、カメの行動の謎は深まるばかりだ。ランニング中の日照った頭も混乱していて、答は出そうにない。カメの幸運と無事を祈って山を走り降りた。

2日後、再びその頂上。1メートルも離れず、またあの謎のカメがいた。

「お腹が空いているのかな」

ふと、山の麓の池が頭に浮かんだ。

「そうだ、池には沢山餌がある」

そっとビニール袋の中にカメを収容し、駆け降りて池に放した。だが、何か様子が変だ。

三木市の峠で道路を横断中のイシガメを近くの沼に放した時も、五峰山の旧参詣道で遭遇したカメを加古川に放した時も、二匹とも水に入るなり、一目散に深みに潜りこんでいったものだ。しかし今回の亀は、水面から首を出したままじっとしている。逃げようとしない。何やら、うらめしそうに、こちらを見ているようにさえ見えた。

 「エーイ!」と、ここでも再び幸運と無事を祈って、ジョギングを続けた。

その夜、どうしても気になってインターネットで調べてみた。

黒く縁取られた、真黄色の甲羅。この特色あるカメの名前はなんと「ヘルマン・リクガメ」……。そう、イタリア、ギリシャの山林に生息するリクガメだったのだ。池に放されても……それは迷惑だったろう。

「可哀想なことをしたな」

ホームズ君としては反省ばかりだが、もう後の祭りだ。その日から、あのヘルマン・リクガメには出会っていない。

今回の事件の解決依頼者は二人の女性である。

いずれの事件も奇怪で、その上難事件だったため記憶に残るものだった。今となっては、懐かしいエピソードであるが、読者の皆さんの参考のために紹介してみたい。

【Aさん40才・主婦の場合】

五月晴れの下、清々しい乾いた風が新緑の樹々の間を渡り、枝や葉をそよがせている。――そんな朝だった。

Aさんは白いブラウスに紺色のスカートを纏って、ホームズ事務所を訪ねてきた。

爽やかないでたちだが、その表情は不安そうだ。傍につき添っているご主人も、何やら沈み込んで見える。

ホームズ君は、ゆっくりと二人の顔を見比べながら「今日は、どうされました?」と、やさしく問いかけた。

伏目がちでうつ向いていたAさんだったが、その声にうながされるように話しはじめた。

事件の経過は長く、発端は半年前。その年の一月に始まっていた。そしてその上不思議な出来事が連続して起こるという、奇怪な経過を辿っていたのだった。

最初の事件は、夫婦で出かけていたレストランで起きた。食事の途中、トイレに立ったAさんは、そのトイレの中で突然意識を失ったのだ。物音に気づいたご主人が駆け付けると、顔面を蒼白にしたAさんが洗面所の床に倒れていたのだった。

二人は翌日、D附属病院の精神科を訪ねた。が、数週間をかけて頭部MRIや脳波を検査したが、全く異常は見つからなかった。異常がなかったためか薬も処方されず、精神科から総合内科に紹介されたのだが、一瞬意識を失って倒れるという発作は、何度も繰り返し起きた。ホームズ君を訪ねる前日の朝も、食事中に意識を失ったのだった。

「附属病院の先生は、睡眠時無呼吸症候群といわれるのですが、そうなんでしょうか」

Aさんは、ホームズ君にそう問いかけた。

【Bさん25才・会社員の場合】

Bさんは、ポッチャリタイプの明るいお嬢さんだ。会話の声も仕草も、元気いっぱいなのだが、困っているのは午前中の眠さだ。

3、4年前から、朝、決まって出勤途中に襲ってくる突然の眠気に困り果てていると言うのだ。特に、運転して会社に向かう車の中が危ない。

眠気は突然襲ってくる。最近は危険すら感じるようになり、予防のためガムを噛んだり、音楽を鳴らしたり、時には手の平で頬を叩いたりしている。

それでも、何の前ぶれもなく眠ってしまっているという。先週は赤信号で停車している時に、それがやって来た。一瞬、眠っていたらしく、気がついたら前の車が発進していなくなっていた。何度か車道の傍のスペースに待避して、難を逃れたこともあった。

さらに困ったことが、職場でも起こるようになってきた。パソコンを操作している仕事中に、フーッと意識が遠くなり、次の瞬間「今、何をしていたんだろう」と我にかえることがあるというのである。

そしてBさんも、Aさんが主治医に言われたように「私は、睡眠時無呼吸症候群ではないかと思うんです」というのだった。

さあ、ホームズ君はどう事件を解決したのだろうか。

解決編をお楽しみに。

【解決編につづく】

「ホームズ君の診療所だより」も、読者の皆様の熱いご支援のお陰様で、今号が記念すべき100回目になりました。心から感謝申し上げます。これからもご声援よろしくお願いします。

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