101 一瞬の意識を失くすうら若き主婦、突然の眠気に襲われるオフィスレディ…… 病魔の正体を暴け!【解決編】
~百人百様の解決法を~
4~5年前、麻耶山岳会の主催する、夏山登山講座に参加したことがある。
木曜日の夕方、仕事帰りの若い人たちと一緒に、3ヶ月間の講義を受けた。
最初の日、講師の山岳会員が「皆さんは電車で空いている席があって座れると、ラッキーと思うでしょうが……」「私は、座る席のない車両に乗ると、逆に”ラッキー”と思います」と、話し始めた。
山岳会の人たちは、たとえ空席があっても座らず、電車の揺れの中で足腰を鍛えるのだそうだ。
「なんとストイック(禁欲的)な」と、感心したものだ。
立つ、歩く、踏んばる……。どれも足腰の筋力が十分でないと、あっという間にできなくなる。
将来の健康のために、少しずつでも筋力維持を、それも意識的に続けなくては、と思う。
ところで、睡眠時無呼吸症候群とは―――。
読んで字の如く、睡眠中に呼吸が止まることで起こる病気である。
眠っている間に何回も呼吸が止まると、身体の中の酸素がグングン減ってしまう。
そこで酸素不足を補おうと、身体は心臓の脈拍数をどんどん上げてゆく。
寝ている間中、脳や心臓、呼吸に大きな負担がかかってしまい、その結果、日中身体がだるく慢性的な眠気が起き、集中力が低下するのである。
睡眠時無呼吸症候群が有名になったのは2003年、新幹線の運転士が居眠りをして緊急停止した事件で、原因がこの病気だと報道されたことがきっかけだった。
心筋梗塞、高血圧、不整脈、糖尿病の原因となることも同時に報道されたこともあり、一気に注目を浴びるようになった。
ホームズ診療所でも、月に一人くらいの割合で検査が行なわれ、検査を受けた人の80%は、睡眠時無呼吸症候群と診断されている。
一旦診断されたら、治療は簡単だ。
夜、睡眠中に器械を装着するだけで快眠が得られ、起床時の爽快感を手に入れることができるのである。
現在まで使用した人は約20人。どの人も、眠りが深くなったことを実感している。
「ホームズ君、AさんもBさんも睡眠時無呼吸症候群を心配しているけど、そうなんだろうか」
「ワトソン君、睡眠時無呼吸症候群は、有名になったのはいいけど大分誤解もされているように思うよ」
「と、言うと―――」
「実は昼間の眠気といっても、Aさんのように急に意識を失って倒れるということはないし、Bさんのように運転中も含めて頻繁に眠りに入ってしまうということもない」
「とすると、Aさん、Bさんは……」
「うん。必要な検査をして、経過をみることになるだろうね」
<Aさん40才・主婦の場合>
Aさんは受診したその日に、睡眠中に呼吸が止まっているかどうかを調べることになった。
看護士さんから検査の器械の使用方法を詳しく教えられ、帰宅したのだった。
一週間後、検査結果のレポートが送られて来た。
その結果は、睡眠中の無呼吸発作は○回。つまり、治療の対象にはならないということだった。
「Aさん、食事中に意識が飛ぶという状況を、もう少し説明して頂けませんか」とホームズ君は、検査結果を説明してから再び質問した。
「ええ。主人が言うには、一点を見つめてほんの数秒間、動作が止まっていたと言うんです。私はその間のことを、全く覚えてないんです」
Aさんのその言葉から、ホームズ君の下した診断はてんかん発作。
てんかんというと読者の皆さんは、生まれつきの、子どもの頃から起こる発作をイメージすると思う。
しかし実際は生まれつきより、中・高生、大学生、成人になってから初めて起こるてんかんの方が多いという事実を知っておいてほしい。
実際Aさんは、抗てんかん薬の服用で、意識消失発作は起こらなくなったのだった。
<Bさん、25才会社員の場合>
Bさんは、実は妊娠中ということもあり、頭部のCT検査もできなかった。
そこでホームズ君はC医療センターの神経内科に紹介状をしたため、Bさんに持参していただいた。
精密検査を受けてもらうことにしたのである。
後日、Bさんへの電話でホームズ君が確かめたところによると、Bさんはさらに専門医の診断を受けた上で、大阪の睡眠障害の専門病院に入院して、精密検査を受けることになっていた。
運転中の眠気が強いため通勤は無理と判断され、退職する方向で話を進めているとのことだった。
「特発性過眠症」
Bさんには、そういう診断名が伝えられているそうだ。
入院検査の前という環境でも、Bさんの声は明るかった。
検査の結果が出たら、また連絡をもらえるだろうとホームズ君は考えている。
「いろいろな症状の人たちが訪ねてくるものだね、ホームズ君。」
「そうだね。しっかりと一人一人のお話を聞き、適切な方針を立てる。
百人には百通りの問題解決法がある。そう実感しているよ」
ますむら医院・院長 増村 道雄