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102 脳腫瘍ってどんな病気?

~頭痛や物忘れの背後に潜む真犯人を追いつめる~

7月初めから、集中豪雨、台風、集中豪雨、台風、そして、北海道胆振東部地震……。6月中旬の大阪北部地震も含めると、大きな自然災害が次々と日本列島を襲っている。

その一つ一つの災害による被害の大きさは、目を覆うばかりだ。本当に我が目を疑う光景を、これでもかとばかりに見せつけられている。そうした毎日の中で、いつか我が身にも及ぶだろう厄災の予感に、幾分か諦めにも似た感情が心の底に漂っているようにすら思う。

そうした昨今、大好きな六甲山中を以前にも増して歩き、心の緊張をほんのわずかでも緩和するように努めている。

そんな山道にも、豪雨と強風の爪跡は残っていて、落木、倒木が行く手をふさいでいる。ホームズ君は次に歩いてくる登山者のために、大きな枯枝や倒木を片づけて歩くようにしているのだが……。

事件はそんな時に起きた。

何本もの枯木を周辺の藪に放って道を開けながら歩いていると、大きな倒木が行く手を阻んでいた。長さは3mくらい。折れている幹の直径は10cmほど。重い。中程を両手で持って、左の谷へ投げた。

投げ棄てる瞬間、「何か起きる」という不思議な心の動きを感じた。直後、その「何か」が起きたのだ。手を離れた倒木が落ちてゆく途中、崖のへりに当たって大きくバウンドした。と思った瞬間、枝の部分が左頬に強く当った。「痛いっ」と頬を押さえたタオルに、血が滲んでいる。その出血がおさまるまで圧迫止血をし、さあ先に進もうと思った時、風景のピントが合っていないことに気づいた。

あの倒木の枝の一撃で、なんと眼鏡が吹っ飛んでいたのだ。眼鏡は、左側の谷に落ちたようだった。ここで慌てて、崖を滑落することがないよう慎重に登山道を下り、両手両足で身体のバランスをとりながら、崖を横切るように倒木に近づくと、幸いにも枯葉の間に眼鏡のレンズ部分を見つけることができた。そっと手を伸ばして拾い上げてみると、フレームもレンズも壊れていなかった。

後になって冷静さを取り戻すと、気になったのは倒木を手に持ち谷へ向かって投げ棄てようと思った時に感じた心の動きだ。それは何か危険が迫る「予感」のようなものだった。しかし、その「予感」を無視して木を投げ、その結果、顔に傷を負い眼鏡が吹っ飛んだ。

「予感」を感じた時、手を止めることができなかったのか? 繰り返しその時の自分を思い起したが、結果は「エーイ」とばかり、思考停止した自分の愚かさばかりが思い出され、ただただ反省の思いのみが浮かんだ。

即断即決、猪突猛進、独断専行で失敗して来た我が人生を思い返す、良いきっかけになった出来事だった。

これからは、危険の「予感」を感じた時には素直に行動を止め、もっと良い方法がないか、ゆっくり考えることにしたいと思う。

さて今回の話題は「脳腫瘍」だ。

脳の腫瘍と聞いて、読者の皆さんはどんなことを思い浮べるだろうか。あまり良いことは考えられないのではないかと思う。

専門家の立場からすると、脳腫瘍といっても、症状や経過、治療に対する反応、つまり治るかどうかについても千差万別だと言えるだろう。脳の中の場所によって、腫瘍の性質によって百人百様の脳腫瘍があるのだ。

今回は2人の女性に登場して頂こう。

【Aさん 43才・女性の場合】

Aさんは、頭痛と不眠を心配してホームズ診療所を訪れた。事務員として長い経歴を持つスラリとした体型の女性だった。キビキビとした態度や身のこなしからも、第一線でキャリア・ウーマンとして働いている、その自信の程が見てとれた。

お話を伺うと、頭痛は後頭部の鈍痛で、仕事に差し障りがあるほどではない。

5ヶ月半前には、職場の近くの脳神経外科を受診し頭部CTを撮影したが、幸いなことに異常なしと言われたのだった。Aさんは、ホッとしてしばらく仕事に打ちこんで毎日を過ごしていた。とはいえ、市販の痛み止めを飲み続けながらの生活だった。しかし最近は、頭痛とは別に眠りが浅くなり、朝疲れがとれないこともあり、受診したという訳だったのだ。

さあ、Aさんの頭痛、不眠を、ホームズ君はどう診断し、治療したのだろうか。

【Bさん 80才・女性の場合】

Bさんは、長男さん一家と一緒に生活している元気な女性である。3週間ほど前に姉が亡くなり、ショックを受けていた様子がみられたが、それでもすぐにその悲しみから立ち直って、気丈に生活をしていたので、家族もホッとしていたのだった。

それが、一週間前、離れて暮らしている娘さんが、元気づけにと訪ねて来た時、異変が起きた。

娘さんが言うには「会話が成り立たない」それも「すぐ前に言ったことを忘れている」とのことだった。

会話をしても、返事はいつも「何もわからない」と言うばかりで、辻褄(つじつま)のあった返答が戻ってこないのだ。娘さんは、「これはアルツハイマー病、つまり認知症になってしまったのではないか」と思った。住まいの近くで認知症の治療ができる診療所を調べ、ホームズ診療所を訪ねて来たという訳だった。

Bさんが診察室に入って来る様子を見て、ワトソン君は「手足のマヒは全くなさそうだ。顔色も良いし、健康そのものといった感じだね」と声をかけた。

「しかし、ワトソン君。すでに検査を済ませた認知症テストは30点中7点。完全に認知症圏内だね。でもね、認知症という病気は、ある日を境に突然症状が出るということはない。なぜなんだろうね」

さあ、Bさんの病気は果して何なのだろうか。次号の展開をお楽しみに。  

[解決編につづく]

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