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103 脳腫瘍ってどんな病気?【解決編】

~「頭」に不安を感じたら、まずは専門医による検査を!~

ほぼ毎日のように裏山を走っていると、時折シカやイノシシに遭遇することがある。

こちらは山道を通るのみで、いわば一定の線の上を行き来しているだけなのに、早朝だからだろうか、それでも出くわす。

野生動物の生活圏を、ジョギングに使わせて頂いているからと彼らに敬意を払い、なるべく驚かさないようにしている。

立ち止まり、音を立てずに、息をひそめて……と考えているが、彼らの逃げ足は早い。

あっという間に姿を消してしまう。

また、時には野生動物の不思議な行動に触れ、自然界の奥深さを思うこともある。

山道の脇のカサカサ――カサカサ、という断続的な音の主はトカゲだ。

カサカサカサカサカサカサと長く続く時は、決まってヘビがいる。

この間、出遭った大きなシマヘビは、直立する杉の幹を上手に登っていった。

鎌首を持ち上げ体をくねらせながら、ほぼまっすぐに木の幹を登るヘビの姿には驚いた。

そもそも木に登る目的はなんなんだ。高い所にある鳥の巣でも襲うのだろうか。

初めて目にしたヘビの様子に、あまり知られていない彼らの生態の一部を垣間見た気がした。

さてAさん、Bさんのその後に話を戻そう。

<Aさん・43才女性の場合>

頭痛の原因を調べてほしいというAさんの希望に応え、ホームズ君は前医から二度目となる頭部CTを勧めた。

ホームズ君としては、脳に病気がないと安心して頂こうと思ったのだ。

検査結果を見ると、思いの他の結果だった。右の頭頂部に2cmほどの腫瘍があったのだ。

腫瘍は頭蓋骨に接し、脳の表面を圧迫している。

しかし、腫瘍自体が2cmほどと大きくないため、正確にいうと柔らかい脳組織の方が微妙にへこみ、圧迫を回避しているという状態であった。

「ホームズ君、あの丸く見えるふくらみは何だい?」

「あれは、脳腫瘍と思う。小さいから、おそらく全部そっくり取り除くことはできるけどね」

「Aさん、驚くだろうね」

「必要以上に心配しないよう、説明しないといけないね」

2人はAさんを応接室へ招き入れ、CT写真を説明しはじめた。

Aさんは脳腫瘍と聞いて、当然のことながら少し不安そうな表情を浮べた。

しかしホームズ君の、①腫瘍の場所や大きさから考えて、頭痛の原因ではない 

②境界が鮮明な形態をしていることから、髄膜腫という良性の腫瘍の可能性が高い 

③手術で完全に取り除くことができるといった説明を受け、ホッとした様子に見えた。

ホームズ君は、Aさんが希望する脳神経外科専門病院に紹介状を書き上げ、CT写真を入れたCDと一緒に手渡しながら「しっかり、治療してもらってください。予想通りなら、完全に取り除くことができるから」と励ましたのだった。

Aさんは、MRI、脳血管撮影などの精密検査を受け、翌月には手術を受けた。

病院からの報告によると、腫瘍はやはり髄膜腫で、すべて取り除くことができた。

その後約1年間、外来通院による経過観察を経て治療終了になった。

「腫瘍が頭痛の原因にはなっていない」というホームズ君の推察通り、Aさんは今も2ヶ月に1回くらい、効果のある頭痛止めと睡眠導入剤の処方箋を求めて、元気にホームズ診療所に通院している。

<Bさん・80才女性の場合>

認知症という病(やまい)は長い時間をかけ、徐々に症状が明らかになってくる病気だ。

一緒に生活している実の子どもたちすら、「随分前から軽い物忘れはありましたが、認知症になっていたとは考えもしませんでした」と言うくらいである。

親孝行で面倒見のよい若夫婦が知らず知らず、しかし一生懸命に世話をしている家庭では、重症な認知症になっていることが多い。

それは認知症特有の不都合な症状を、家族が埋め合わせるように補なっていることが多いからである。

このように認知症の症状は、周りの人が気づかないほどゆっくりと進行する。

だから、Bさんのように突然、会話が成り立たなくなるような時は、「なぜなんだろう」という疑問が湧いてくるのである。

ホームズ君は、Bさんのような経過の場合、まず頭部外傷による後遺症の「慢性硬膜下出血」や、意識の低下が別の理由で起きる「せん妄」という病気、また脳血栓や脳出血を考えることが多い。

そうした病気の方が、どちらかというと突然起こるからである。

しかしながらBさんの頭部CTは、予想をくつがえす結果であった。

左の側頭部に9cmを越える巨大な「のう胞」が見つかったのである。

「のう胞」とは袋状の脳腫瘍のことで、その中身は液体である。

「ホームズ君、予想に反して巨大な腫瘍だね」

「左の側頭部は、聴いたことを理解したり、言葉を喋ったりするのに大事な働きをする所だから、会話にならないという症状は理解できる」

「なぜ、こんなに大きくなるまで症状が出なかったのだろう」

「脳という組織は、ゆっくりゆっくり大きくなる腫瘍の場合、耐えられるギリギリまで無症状を保つことはあるのだが……。しかし、こんなに大きな腫瘍とはね……」

Bさんは家族の同意を受け、K総合病院脳神経内科・脳神経外科のグループに紹介になったのだった。

脳腫瘍の症状には決まったパターンはない。発症の状況は百人百様である。

従って症状によらず、頭に不安がある場合は、早期に専門医で検査を受けられることをお勧めしたい。

ますむら医院・院長 増村 道雄

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