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106 ウイルス性胃腸炎ってどんな病気?

~その治療、予防、対策について~

今年は暖冬で、2月中旬というのに今日も昼間の最高気温が10度を超えている。1ヶ月も前から計画していた有馬の百間瀧、似位滝、七曲滝の氷瀑巡りも中止になった。

しかしインフルエンザは大流行で、先月は全国で羅患した人が130万人を越えた。流行は去りつつあるが、皆さん油断せず、今後も予防に努めて頂きたい。うがい、手洗いをしっかりと続けてほしいと思う。

ところでこの時期、下痢、嘔吐、発熱で始まるウイルス性胃腸炎も要注意だ。ホームズ診療所でも連日胃腸炎の人たちが治療に来ている。今回は、そうした胃腸炎のお話である。

Aさん(50才・女性)は喫茶店のウェイトレスである。元来、人と接する仕事が大好きで、以前は量販店のサービスカウンターや、スーパーマーケットのレジ係の仕事をしてきた。いつも明るい笑顔で働いていて、お店でも人気者だ。今日も馴染みのお客さんと世間話をしながら、テーブルからテーブルへと飛び跳ねるように仕事をこなしていた。

そんなAさんを病魔が襲ったのは、昼の仕事が一段落しかけた午後2時頃だった。

午後の作業は、カウンターやテーブルの拭き掃除や、床のほうきがけといった簡単なものだったが、それにとりかかろうとした時、Aさんはみぞおちに不快感を感じたのだった。

「おかしいな」と思うとほぼ同時に、強い吐気に襲われトイレに駆け込んだ。しかし、吐気はあるものの吐くことはなかった。吐気は続いているが、急に胃の中が空っぽになった感じがして、嘔吐はなかったのだ。

トイレを出たAさんは、全身の強い脱力感を感じてフロアの椅子に座りこんでしまった。ムカムカした感じは続いていた。力が脱けたと感じた次の瞬間、サーッと全身が寒くなると同時に、額に冷たい汗を感じた。

「この2、3日の疲れかな」と、その時Aさんは思ったそうである。だが、異変に気づいた同僚の機転で救急車が呼ばれ、Aさんはホームズ診療所に運ばれてきた。

タイミングが良かったというべきだろう。救急車で運ばれる間中、Aさんは吐気に襲われ、何度も嘔吐したのだった。同僚はその時の様子を「顔が真蒼になって動けなくなっている上、呼吸もおかしかった」と後で話してくれたという。

全身の脱力、ムカムカ感を伴っての腹痛、胃液しか出ないというのにしつこく続く嘔吐……。椅子に座るのもやっとという状態のAさんを迎えたホームズ君は、優しい笑顔と共にこう切り出した。

「大変ですね。いつからこんな感じになりましたか?」

Aさんは、昼からの経過をかいつまんで説明した。

「Aさん、ここ一ヶ月間、ウイルス性胃腸炎が流行しているんですよ。同じような症状の方が毎日のように病院に来ています。ところで、お家、嘔吐、下痢をしている人はいませんか」

その問いかけに「ええ。2才の孫が3、4日前から嘔吐して、小児科でお薬をもらっていたんです。この2、3日、その孫の看病で夜中に起きていたりで、疲れ果てているんです」と、Aさんが答えた。

「お孫さんの便の色はどんなでしたか?」

「下痢気味ですが、色は白っぽかったです」

「ウイルス性胃腸炎をお孫さんからもらったようですね。この時期のウイルス性胃腸炎は、ノロウイルスかロタウイルスですが、多分ロタウイルスでしょう。Aさんの血圧は86/60、脈拍は106。普段から血圧は高くないようですが、少し低めになっています。脈も少し早めで、脱水になっているんでしょう。尿検査ではケトン体が2+(プラス)出ています。このままお家に帰っても、何度も嘔吐する危険性があります。吐気止めのお薬とブドウ糖の入った点滴をしましょうか」

しばらく点滴室で点滴治療を受けたAさんは、ようやくお腹の不快感も改善し、薬を受け取って帰宅したのだった。

ノロウイルスもロタウイルスも、決して強いウイルスではない。しかし、感染を起した人の便や嘔吐物から、比較的簡単に周囲の人へ感染する。

たとえば嘔吐物を片づける時に手についたウイルスが、口から侵入したり、空中に舞い上がったウイルスが、鼻や口に入ってしまうといったパターンが多い。

この種のウイルスは、アルコール消毒には強いが、過酸化水素=漂白剤には弱い。だから吐物は、新聞などで覆って散らからないようにした上に、ペットボトル1本500ccの水に、キャップ1杯の漂白剤を溶かした溶液をまくこと。そして、手袋をして始末をすることが大事なポイントだ。その後、しっかり手洗いをしておこう。

吐気で汚れた畳、カーペット、フローリングの床は、掃除機で掃除してはいけない。掃除機の排気口から、ウイルスを室内にまき散らすことになるからだ。

嘔吐の後の水分補給にもコツがある。喉が渇いたからといってゴクゴク水を飲むと、胃や腸が動いていないのですぐ嘔吐が始まる。嘔吐によって胃液も失なわれてしまうので、たちまち脱水になってしまうのである。

水分補給は、まずはスプーン1、2杯の水かスポーツドリンクで。30分ほど待って嘔吐しないことを確かめてから、コップ一杯を。さらに30分ほどおいて嘔吐しなければ、コップにもう一杯。それが飲めたら、初めて十分に水分を摂る。途中で吐いたら、またスプーン一杯から。慎重に水分を補なって頂きたい。

脱水の症状として、発熱や意識がボーッとする様子があったら、入院が必要な場合があるので要注意だ。

ウイルス性胃腸炎が流行しやすいこの季節、手洗い、うがい、マスクの使用を心がけ、乗り切って頂きたい。

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